税理士試験の勉強で複式簿記の勘定科目や仕訳について学んでいると、借方と貸方のどちらに仕訳をしたら良いかが悩みになる場合があります。当期純利益は借方に書くと参考書などでも説明されていますが、腑に落ちない人もいるのではないでしょうか。ここでは賃借対照表の借方と貸方について簡単に説明した上で、なぜ当期純利益が借方になるかをわかりやすく解説します。会計学を学ぶ際に重要なポイントを含んでいるので参考にしてください。
賃借対照表の借方と貸方の意味と仕訳法則
当期純利益の仕訳について解釈できるようになるには賃借対照表の借方と貸方についての理解が必要です。賃借対照表で左側に借方、右側に貸方を記入するのが複式簿記の仕訳のやり方ですが、そもそも借方と貸方にはどのような意味があるのでしょうか。まずは複式簿記の仕訳の基礎を確認しておきましょう。
借方と貸方の意味
賃借対照表の借方は支出、貸方は収入だという誤解をしているケースがあります。このような理解をしていると当期純利益は収入になったから貸方だと考えるのももっともなことでしょう。しかし、会計学における借方と貸方の意味は厳密には支出と収入に対応しません。借方と貸方は経理上での取引に紐づけて定義されています。
会計学では取引を資産、収益、負債、費用の4つに分類します。そして、それぞれの取引について増えたか、減ったかに応じて借方、貸方に勘定科目を記入するのがルールです。借方には資産または費用の増加、収益または負債の減少を記入し、貸方には資産または費用の減少、収益または負債の増加を記入します。
この記入方法そのものが借方と貸方の意味を示しています。借方は資産や費用の増加の計上項目、貸方は収益または負債の増加の計上項目です。
複式簿記の仕訳法則
複式簿記で勘定科目を記入するときには仕訳法則に従います。仕訳法則とは取引と借方、貸方の紐づけ方だけを指すこともありますが、借方と貸方の金額を一致させるルールも含めることが多くなっています。
例えば、サービスで利用する資材を10万円の現金で仕入れたとします。この場合には資材仕入が借方になります。資材という資産が増加したからです。そして、現金で支払いをしたことによって資産が減少したので貸方に現金を記入します。
また、100万円の銀行融資を受けたときには借方に現金、貸方に借入金と記入します。融資によって負債が増加した分は貸方、融資に伴って入ってきた現金で資産が増加した分は借方にすると解釈するのがルールです。
賃借対照表には純資産も登場します。増資によって株主から資本金を調達したときには貸方に資本金と記入し、調達した現金の金額を資産として借方に記入します。
記帳をしたときに、借方と貸方の金額の合計が一致するようにするのが仕訳法則のルールです。商品の仕入れと支払いのタイミングは一致するわけではないので、間に売掛金や買掛金を挟む場合もあります。帳簿全体を見たときに収支のつじつまが合うようにすると考えても良いでしょう。
当期純利益の意味と借方になる理由
借方と貸方の意味と仕訳法則についてわかると当期純利益が借方になる理由も解釈できます。当期純利益が借方になるのはなぜなのかを詳しく確認していきましょう。
当期純利益の意味とは
当期純利益とは一年間に最終的に生み出された純利益を指します。売上からさまざまな費用を差し引いていくことで、経理上では5種類の純利益を計算します。売上から原価を引いたのが売上総利益、売上総利益から販管費を引いたのが営業利益です。営業利益から営業外損益を引き去ることで経常利益を計算します。経常利益に特別損益を加味して算出したのが税引前当期純利益です。そして、当期純利益は税引後当期純利益とも言われていて、法人税などの税金を引いた最終的な純利益になっています。
当期純利益は必然的に借方になる
当期純利益は売上から諸々の経費を差し引いたものです。原価+販管費+営業外損益+特別損益+税金+当期純利益=売上という計算式が成り立ちます。この内容を賃借対照表に落とし込んで考えると、等式の左側と右側の金額がつり合って仕訳法則が成立します。
原価や販管費などはすべて費用になるので借方です。売上は収益になるので貸方になります。そのため、仕訳法則を成立させるには当期純利益は借方にせざるを得ません。このように仕訳法則に従って記帳をするには必然的に当期純利益が借方になります。
損益等式から誘導される等式からの解釈
当期純利益が借方になるのがなぜなのかを解釈する方法として別のアプローチもあります。複式簿記において基本となる損益等式から導き出される賃借対照表等式から解釈する方法です。
損益等式とは「収益-費用=利益」というシンプルな等式です。売上から原価を引いたら利益額が計算できると考えると直感的にもわかりやすいでしょう。この損益等式を起点にして、賃借対照表等式、損益計算書等式、資本等式を誘導できます。
当期純利益が借方になる理由を導き出すには、当期純利益が資産の増加に相当することを証明できれば良いでしょう。そのために必要になるのが賃借対照表等式です。賃借対照表等式は「資産=負債+利益を含む資本」です。
賃借対照表等式を導き出すには損益計算書等式が必要になります。損益計算書等式とは「費用+利益=収益」という等式です。損益等式の「収益-費用=利益」の右辺と左辺を入れ替えて「利益=収益-費用」とし、両辺に費用を加えることで損益計算書等式を導き出せます。
賃借対照表で必要な仕訳法則を数式で表すと「資産+費用=負債+収益+資本(純資産)」です。左辺が借方、右辺が借方に相当する等式になっています。この等式と損益計算書等式を用いることで貸借対照表等式を誘導できます。
「費用+利益=収益」を仕訳法則の等式に代入すると「資産+費用=負債+費用+利益+資本(純資産)」になります。両辺から費用を引き去ると「資産=負債+利益+資本(純資産)」です。「利益+資本(純資産)」とは利益を含む資本のことなので、賃借対照表等式の「資産=負債+利益を含む資本」が導出されます。
当期純利益は利益を含む資本の一部です。賃借対照表等式に基づくと当期純利益は資産の増加になるため、貸方に記入することになります。
当期純利益を計算したらマイナスだったときにはどうなるか
当期純利益を売上から計算したらマイナスになるケースがあります。この場合には貸方に記入しなければ仕訳法則が成立しないのではないかと疑問になるでしょう。その解釈は正しいですが、当期純利益が貸方に記入されることはありません。当期純利益を計算したときにマイナスになったら、当期純損失になるからです。当期純損失の場合には損失の増加に相当するので貸方に記入します。
まとめ
当期純利益がなぜ借方になるのかを理解できたでしょうか。基本的には仕訳法則に基づいて必然的に借方になっています。当期純利益は売上から諸々の経費を引き去ったものなので、複式簿記の仕訳法則に従うと借方にせざるを得ません。賃借対照表等式から数学的に解釈して当期純利益が資産の増加だと導き出すことで理解することもできます。当期純損失が損失の増加だから貸方だと考えると、その逆に相当する当期純利益は借方だと考えることもできるでしょう。さまざまな考え方がありますが、結局は仕訳法則に基づいています。自分なりにわかりやすい論理で理解するようにしましょう。”

